2022.11.30

税理士に聞く!「インボイス制度」は中小企業にどんな影響を及ぼすのか?

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2023年10月から始まるインボイス制度は中小企業にどのような影響を及ぼすのでしょうか。準備しておくべきことや注意すべき点を、税理士法人ハガックスの芳賀保則氏に聞きました。

インボイス制度は何のためにスタートするのか?

2023年10月から、日本では「インボイス制度」という、消費税に関する新たなルールがスタートする予定です。

すでにこの言葉を耳にしたことがある人は多いかもしれませんが、具体的にどのような制度なのか、うまく説明できないという人もまた多いでしょう。インボイス制度とは、一体どのような制度なのでしょうか?

渋谷に拠点を構える税理士法人ハガックスの代表社員である芳賀保則氏は、インボイス制度の導入によって、これまで消費税の納税義務が免除されていた小規模事業者が、引き続き免税事業者のままでいるか、それとも課税事業者となって納税義務を負うかの判断をする必要が出てきます、と説明します。

税理士・中小企業診断士・M&Aシニアエキスパート 芳賀 保則 氏

税理士・中小企業診断士・M&Aシニアエキスパート
芳賀 保則 氏

「消費税の申告や計算は、非常に手間がかかることもあり、これまでは基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の小規模事業者の消費税の申告・納税については免除されていました。そのため、消費者が免税事業者に支払った消費税が国庫に入らず、免税事業者の手元に残る、いわゆる「益税」になってきたことが以前から問題視されていました。

1989年4月1日、消費税が導入された当初は税率3%でしたが、その後、3度にわたって段階的に引き上げられ、現在では10%となりました。課税事業者と免税事業者の間では、ますます"不公平感"が大きくなっていると考えられます。この不公平感を改善すべく導入されるのが、インボイス制度というわけです」

インボイス制度の鍵を握る『適格請求書』とは?

それではインボイス制度は、課税事業者と免税事業者の間の不公平感を、どのように改善していくのでしょうか? その鍵を握るのが『適格請求書』です。

インボイス制度は、正式名称を「適格請求書等保存方式」といいます。軽減税率導入による「複数税率」の適正な処理や、益税に対する不信感・不公平感などの課題を解決するのがインボイス制度の主な目的です。

「そもそも事業者にとっては消費税は、課税売上げ(※1)に係る消費税額から、課税仕入れ(※2)に係る消費税を差し引いた金額を納付する仕組みになっています。課税仕入れに係る消費税の控除(以下、仕入税額控除)を受けるためには、税額を記した帳簿と請求書の保存が必要となっていましたが、インボイス制度はこの要件が、より厳格化されることになります。仕入税額控除を受けるためには、現行の請求書(区分記載請求書)ではなく、一定の記載要件を満たした取引証憑、いわゆる『適格請求書』が必要となります。

※1:課税売上げ…商品の販売や、機械や建物の事業用資産の売却など、事業のために資産の譲渡・サービスの提供を行った際の売上のこと。土地の売却や貸付けなどの非課税取引は課税売上に含まれない。
※2:課税仕入れ…商品などの資産を仕入れたり、機械や建物の事業用資産の購入や賃借、原材料や事務用品の購入など、事業のために行った仕入れのこと。

『適格請求書』には、適格請求書を発行する事業者(適格請求書発行事業者)の登録番号と、税率ごとの消費税額及び適用税率の記載が必須です。適格請求書は、税務署に登録した適格請求書発行事業者しか交付できませんが、そもそも適格請求書発行事業者になれるのは課税事業者のみです。よって、これまで消費税の申告・納税が不要だった免税事業者も、適格請求書を発行するためには課税事業者となり、消費税を申告・納税しなくてはならなくなりました」(芳賀氏)

中小企業・個人事業主は、今までのビジネスができなくなる!?

インボイス制度によって、社会にどのような変化が起きるのでしょうか。芳賀氏は一番大きな影響を受けるのは、これまで免税事業者だった中小企業や個人事業主、いわゆるフリーランスとして活動している人といいます。

「消費税を納める必要のある課税事業者はできるだけ消費税の納付額を抑えたいわけですから、仕入・購入先の取引先には仕入税額控除のできる適格請求書の発行をできるだけ求めることになるでしょうし、もし免税事業者であって適格請求書の発行ができないのであれば、今までと同じ条件では取引をしたくないと考える事業者が出てきます。このことが大きな痛手になってしまう免税事業者が出てくると思います。」

免税事業者が2023年10月1日から適格請求書が交付できる課税事業者になるためには、2023年3月末までに、『適格請求書発行事業者の登録申請書』を税務署に提出しなくてはなりません。

「今まで免税事業者であったみなさんが課税事業者になれば、今まで免除されていた消費税を納税しなくてはなりません。課税事業者となる場合は、消費税の制度の仕組みや、申告書の書き方なども習得する必要があります。税理士への依頼も検討したほうがよいでしょう」

芳賀氏はフリーランスとの取引が多い会社へのアドバイスとして、取引相手が適格請求書発行事業者かそうでないかの確認を早めにしたほうがいいと指摘します。

「例えば、スタッフが個人事業主として業務委託契約で働いていることが多いジムやマッサージ店などは、インボイス制度への対応をどうするか、事業者側がリードするほうがよいでしょう。企業によっては、免税事業者に対しては消費税額相当の値下げを要求するケースもあるかもしれませんが、やり方によっては独占禁止法に抵触する恐れもありますので注意が必要です。」

ただし、激変緩和の観点から、制度開始後6年間は免税事業者からの課税仕入れについての経過措置が設けられています。2023年10月1日から3年間は80%控除可能、2026年10月1日から3年間は50%控除可能となります。

「企業はこうした経過措置をうまく利用して、免税事業者との取引に柔軟に対応すべきでしょう」

事務作業の負担増加をどうやって抑えるか

ここまで述べてきた通り、インボイス制度では『適格請求書』が取引の鍵を握ることになります。そのため、請求書に関わる事務作業が面倒になってしまうことが想定されます。

「適格請求書の登録番号が正しい番号でない場合、仕入税額控除ができない可能性もあります。制度開始後は、取引の度に受領した請求書が正しい適格請求書かどうかを、公表サイトで確認する必要があるでしょう。会計ソフトを使用している場合や、コンスタントに取引をしている企業であれば、それほど手間はかからないでしょうが、新しい取引先の場合はその都度、照会が必要になるでしょう」

適格請求書は基本的に、備品購入や接待交際費など事業活動に使われた経費すべてに求められます。経理担当は一枚一枚の請求書や領収書が適格なのかどうかを確認しながら仕分けし、会計入力しなくてはなりません。その手間はかなり大きなものになるでしょう。

なお、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合には、「簡易課税制度」というものを選ぶことができます。

「簡易課税制度とは、業種ごとに設定されている『みなし仕入率』で課税仕入額を概算できる制度です。例えば、卸売業は90%、小売業等は80%、サービス業は50%など、6つの事業区分に応じてみなし仕入れ率が定められているため、課税売上に係る消費税額を集計するだけで控除できる消費税額が計算できるので、事務作業が大幅に軽減されます。

ただし、この制度は課税期間前に届出が必要で、一度、選択すると2年間は継続適用となります。例えば、大きな投資、高額資産を購入する時、多額の消費税を支払います。この消費税が控除できれば還付になるケースでも、簡易課税では控除できないため不利になります。事前に十分なシミュレーションを行い、慎重に判断すべきでしょう」

ITの力でインボイス制度を乗り切ろう

芳賀氏は中小企業がインボイス制度に対応するためのアドバイスとして、会計ソフトやクラウドサービスを導入するなど、IT化を進めるのが良いと話します。

「インボイス制度が始まると、手書きの帳簿やエクセルなどで会計管理をしている事業者は、手間が大幅に増える可能性があります。現在、国内の主な会計ソフトメーカーが参加した電子インボイス推進協議会(以下、EIPA)が電子インボイスの標準化を進めています。EIPAは2022年秋ごろまでに、事業者が電子インボイスに対応したソフトウエアを使用できる状態となることを目指しているといいます。すでに会計システムを導入している企業は、各ベンダーに相談や確認をした方が良いと思います」

芳賀氏は一方で、無理に慌てて登録の判断をする必要はないとしました。

「制度開始まで時間があるので、まだ慌てて登録をする必要はありません。インボイス制度の詳細についてはまだ不明な点もあり、税理士など専門家などが政府に質問を投げかけている状況です。国税庁にて詳細の取り扱いを公表しているQ&Aも逐次、変わってくる可能性が高いです。最新情報を追いつつ、税理士や会計ソフトのベンダーなども上手に活用しながら、着実に制度開始までの準備を進めていくのが良いでしょう。

大事なことは、消費税の基本的な仕組みや、インボイス制度の中身を理解しておくことです。経理担当者だけでなく、社員全体に制度を周知していきましょう」

※現在の消費税制度は累次の改正、特例などにより、仕組みが非常に複雑になっています。ここでは分かりやすい記述にするため、あえて簡略化した説明にしています。詳細は国税庁電話相談センター または 各税務署へお問い合わせください。

※本記事の内容は2021年11月の取材時点の情報です。

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