2023.02.01

税理士に聞く「インボイス制度」 。個人事業主やフリーランスと取引の多い企業はどう備えるべきか

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いよいよ2023年10月から始まる「インボイス制度」。しかし、制度開始に向けてどのような準備が必要なのかしっかりと理解している企業は少ないのではないでしょうか。個人事業主やフリーランスとの取引が多い企業が気をつけるべきポイントや、制度開始に向けて備えておくべきことなどについて、土屋会計事務所の税理士である土屋裕昭氏にお話を伺いました。

2023年10月インボイス制度スタート 仕入税額を控除するには適格請求書が必要に

いよいよインボイス制度が始まります。すでに制度開始に向けた登録申請や登録申請書の審査などが行われていますが、そもそもインボイス制度とはどのようなものなのでしょうか。この制度が導入された背景を含めて土屋氏に伺いました。

「インボイス制度が導入された一番の背景は、軽減税率の導入によって8%と10%の二つの税率が存在するようになり、商取引における消費税額の正確な把握が難しくなってきたことです。そこで、適用税率や消費税額を明記した適格請求書(インボイス)の発行を義務付けることで、複数の税率を明確化する。それがこの制度の一番の目的です。仕入税額の控除には適格請求書が必要となりますが、適格請求書を発行するには適格請求書発行事業者として登録しておく必要があります。制度が始まる2023年10月1日までに適格請求書発行事業者になるには、審査期間を考えて2023年3月31日までの登録申請書の提出が必要です」

ちなみに、適格請求書といっても、特別なものではありません。適格請求書発行事業者としての「登録番号」と「適用税率」、「税率ごとに区分した消費税額等」が記載されていれば、今までの請求書や納品書、領収書やレシートが適格請求書として認められます。

「制度導入後は、支払った経費の請求書や領収書などが適格請求書なのか否かに応じて集計が必要になります。なので、独自に会計システムを組んでいたり、エクセルで会計管理をしていたりするような企業は、インボイス制度に対応したものに変更しなくてはなりません。会社によっては経理業務の負担が増える可能性があるでしょう。一般的な会計ソフトを導入している企業であれば、ベンダー側がインボイス制度に合わせたバージョンに更新するはずなので、システムに関しての心配はさほど必要ないと思います」

取引先が課税事業者か免税事業者なのかを把握する必要がある

以上がインボイス制度の概要ですが、この制度の導入の背景には、基準期間(通常は2年前)の課税売上が1,000万円以下で消費税の納付がこれまで免除されていた、いわゆる免税業者の益税問題を正す目的もあると、土屋氏は指摘します。

「消費税は、事業者が売上に載せるかたちで消費者や取引先から預かった消費税額から、仕入れや外注、経費などの支払いに載せて払った消費税額を差し引いた(控除した)金額を納税する仕組みになっています。ただ、基準期間の課税売上が1,000万円以下の事業者は救済措置により、消費税の申告納税は免除されています。よって、一部の免税事業者は、売上に載せるかたちで消費者や企業から受け取った消費税分をそのまま利益にすることができたのです」

インボイス制度が始まると、企業は適格請求書なしには仕入れや外注、経費などの支払いに載せて払った消費税を控除できなくなります。よって、免税事業者がインボイス登録して課税事業者に転換することなく、その後も以前と同じ条件で取引を継続すると、企業側の消費税負担が増えてしまいます。そのため免税事業者に消費税額分の値下げの交渉をしたり、課税事業者としか取引しないといった企業が現れたりする可能性がある、と土屋氏は言います。

「個人事業主やフリーランスとの取引が多い企業は、早めに取引先が課税事業者なのか免税事業者なのか、インボイス制度に登録するのかしないのかをヒアリングし、その後の対応を考える必要があるでしょう。相手が登録しない場合、値引き交渉をするのか、自分たちが消費税分を負担して取引を継続するのか。それは取引先との関係性や事業の考え方などにもよるので、個別に交渉していくことになるでしょう」

免税事業者は圧倒的に個人事業主やフリーランスが多いため、そういった方との取引がない会社は「関係ない」と思っているかもしれません。ただ、見落としがちなポイントとして、事務所や店舗のオーナーや、健康診断や予防接種などを委託しているクリニックなどが挙げられると土屋氏は言います。

「賃貸住宅の家賃は非課税ですが、実は事務所や店舗の賃料には消費税がかかります。よって、所有する1棟マンションの1階部分だけ店舗として貸しているような場合、そのマンションのオーナーの全体の賃貸収入が仮に1,500万円でも1階部分の店舗の家賃収入が500万円であれば、免税事業者となります。また、医療機関では保険適用の診察代は非課税で、消費税がかかるのは自由診療や予防接種、健康診断など一部の医療行為のみです。そのため、消費税の判定では課税売上とされている自由診療などで1,000万円以下であれば免税事業者に該当しているクリニックも少なくないのです。一見、関係のない領域でも制度に関係する場合があるので注意が必要でしょう」

制度導入による消費税負担を抑える経過措置や簡易課税制度の活用を検討しよう

ここまで見てきたように、インボイス制度は免税事業者との取引が多い企業の経済的負担が大きくなる可能性があります。そこで、国もさまざまな救済措置を用意しています。その一つが、仕入れ税額控除の経過措置です。

「いきなり免税事業者からの外注費や経費などの課税仕入れが控除できなくなれば、企業にとっては大きな痛手となるでしょう。そこで、制度開始から6年間は、免税事業者からの課税仕入れでも部分的に控除が認められます。最初の3年間は免税事業者からの課税仕入れの80%、次の3年間は50%を控除することができるのです」

インボイス制度の開始にともなう経理業務や税負担の増加を防ぐうえで、簡易課税を選択することが有効なことも多いと、土屋氏は言います。企業が申告する消費税の計算方法には原則課税と簡易課税の二つがあり、簡易課税は基準期間の課税売上高が5,000万円以下の企業のみが利用できる制度です。

「原則課税では、売上にかかる消費税額から仕入れなどにかかった消費税額を引いた金額が納税額となります。一方、簡易課税では、売上に関わる消費税額に一定のみなし仕入れ率をかけるだけで納付税額が決まります。そのため、取引先が適格請求書を発行できるかそうでないかを気にせず、面倒な計算や経理処理なしに、納付税額を決めることができるのです」

みなし仕入れ率は業種によって決められており、例えばサービス業の場合は50%と設定されています。そのため、外注費や仕入れ、経費などが売上の50%以下の場合、納税額の節約につながるのです。 。

「何より取引先が免税事業者か課税事業者か関係なくなるため、面倒な確認作業や交渉が不要となるのは企業にとって大きなメリットでしょう。ただし、売上に対する外注費や仕入れ、経費などの割合が多い会社の場合は簡易課税にすると損することもあるので慎重に選択することが必要です。他にも小規模事業者の税負担を軽減するため、納税額に上限額を設けたりと新しく負担軽減策も検討されているようなので、その辺りもあわせて注視するようにしましょう。」

今後の動向を含め、インボイス制度に関する正しい知識をつけて早めの準備を行おう

フリーランスや小規模事業者の負担が増えるインボイス制度に対しては、廃止や延期を求める動きも起きています。一方で、政府は免税事業者が適格請求書を発行するために課税事業者となった場合の救済措置の議論も進めています。すでにインボイス制度への登録申請をしている会社も多く、廃止や延期をすると大きな混乱を招くので、予定通りにこの制度は始まるのではないかと、土屋氏は言います。

「新しい制度の導入時には、多少の混乱はあるのは当然です。ただ、制度開始後もできる限り現在の事業を円滑に行えるよう、早めの準備を心がけておきたいものです。まずは、この制度に対する正しい知識を社内でしっかりと共有しておくことが大切です。フリーランスや個人事業主との取引が多い企業の場合は、そういった方々に向けて説明会を開くのもいいでしょう。そのうえで今後も制度に関する情報収集を続け、税理士など専門家の知恵やITツールも有効に活用しながら、適切に対応していただければと思います。また動きの大きい制度ですので、事業者の負担を軽減する新たな特例措置なども検討されていたりするようです。なので、制度の最新状況についても常に把握しておく姿勢も重要になるでしょう」

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